INTERVIEW

地雷除去のロボット化から地雷原跡地の復興支援まで。
エンジニアリングの力で、カンボジア情勢の進展に挑む。


対談

作家

小松 成美

IOS株式会社 代表取締役

今井 賢太郎


PROFILE

今井 賢太郎(いまい けんたろう)

IOS株式会社 代表取締役

1973年生まれ。神田外語大学卒。大学在学中に飲食業にて起業。
以後、IT関連職及び医療関連職を経て2016年よりIOS㈱取締役、2018年同社代表取締役就任。

小松 成美(こまつ なるみ)

作家、(株)SDGs technology 取締役

神奈川県横浜市生まれ。広告代理店、放送局勤務などを経たのち、作家に転身。
生涯を賭けて情熱を注ぐ「使命ある仕事」と信じ、1990年より本格的な執筆活動を開始する。
主な作品に、『アストリット・キルヒヘア ビートルズが愛した女』『中田語録』『中田英寿 鼓動』『中田英寿 誇り』『イチロー・オン・イチロー』『和を継ぐものたち』『トップアスリート』『勘三郎、荒ぶる』『YOSHIKI/佳樹』『横綱白鵬 試練の山を越えてはるかなる頂へ』『全身女優 森光子』『仁左衛門恋し』『熱狂宣言』『五郎丸日記』『それってキセキ GReeeeNの物語』『虹色のチョーク』『M 愛すべき人がいて』などがある。
現在、執筆活動をはじめ、テレビ番組でのコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。近年は、SDGsを多様な角度から見つめ、その取材に心血を注いでいる。


創立1年目に訪れたビジネスの転機。

小松 IOS株式会社(以下、IOS)は、カンボジアの地雷除去や地雷原跡地の再生復興支援に取り組み、2020年8月に、JICA*1から「JICA-SDGsパートナー」に認定されています。IOSは、もともとSDGsに紐づいた活動を目的に設立されたのですか。

今井 いえ、技術者でもある弊社会長の狼(おおかみ)が、これからはロボットの時代だということで、2016年に知人たちとロボットの研究・開発を中心とした事業を立ち上げたのがIOSのはじまりです。

小松 地雷除去作業を支援するロボット「DMR(Demining Robot)」の研究・開発は、IOS設立当初からされていたのですか。

今井 当初は、3K(キツイ、汚い、危険)の職場を、テクノロジーを使って手助けできないかと、ソーラー発電所の除草や橋梁点検の自動化ロボット等の研究・開発を行っていました。こういうことを自動化できれば社会がもっと豊かになるのではないか、こういうロボットを開発したら世の中が面白くなるのではないかなど、ロボットの可能性をいろいろと模索していた時期に、JICAと面談の機会を得て、DMRの研究・開発につながるお話をいただきました。

小松 JICAから、DMRの研究・開発の依頼がきたということですか?

今井 依頼ではないです。JICAの方から、カンボジアにCMAC*2という地雷除去を実施実行する政府機関があるからと紹介を受け、一度現場を見に行こうという事で視察に行き、そこから地雷問題に取り組むようになりました。

小松 JICAからそのお話をいただいた時に、どう思われましたか。

今井 ビジネスチャンスだと思いました。
過去の実績として、JICAからCMACに機材の供与が何度か行われていて、両者の間には既に仕事となるルートができているわけですから、私たちが開発した機材もその流れに乗せることができれば、ビジネスとして成立するのではないかと思いました。

小松 JICAは、1998年からCMACに活動資金の提供や技術・機材の供与、専門家の派遣などを積極的に行い、カンボジアの地雷・不発弾除去に大きく貢献していますからね。

今井 それに、私たちのエンジニアリング技術を通して、発展途上にあるカンボジアの未来のために、何か少しでも貢献できることがあるのではないかと思いました。その中で弊社も持続的に発展していけたら、とても素晴らしいことじゃないかと。

目の当たりにした地雷掘削の光景に覚えた、エンジニアとしての使命感。

小松 カンボジアに初めて視察に行かれたのはいつですか。

今井 2017年です。1週間ぐらい滞在して、CMACの方に拠点や地雷原など、いろいろな場所へ連れていってもらい現場を視察しました。

小松 地雷原はどのエリアに多いのですか。

今井 西側に多いです。東側はベトナム戦争があったサイドなので不発弾が多いですね。

小松 地雷は、兵士を殺すことではなく手足を負傷させることが目的で、身体的にも精神的にもダメージを与える、本当に卑劣で残忍な兵器です。しかも一度地中に埋められると、戦争が終わっても誰かが踏むか除去するまで永劫に残り続けます。いまカンボジアに戦争はありませんから、地雷被害に遭うのは、普通に生活をする人々、子どもたちですよね。
CMACの20年来の活動もあって除去作業も進み、危険なエリアの区分けも進んでいると思いますが、日常の動線が本当に安全かどうかは分からないですよね。

今井 そうですね。でもカンボジアでは、そこに地雷があるかもしれないと言われている場所でも、やむなく農業をやっている方々がいます。日本人には感覚的に理解しづらいかもしれませんが、やめるわけにいかない事情がある人は、そういう場所でも、そのまま農業を継続しているんです。

小松 カンボジアの街で暮らす人の中には、地雷問題は過去のものだと思っている人がいると聞きますが、多くの農村地域では進行形の問題として、今でも地雷の恐怖と日々向かい合い生活をしているのですね。
実際にカンボジアの地雷原を視察されて、何か研究・開発につながる課題はありましたか。

今井 まず地雷原で私たちが呆然としたのは、「地雷を手作業で掘削している」ことでした。
作業の危険性については、あらかじめCMACの長官から説明を受けていて、手作業では作業員が怪我をするリスクをゼロにすることが、どうしてもできないということでした。その話と併せて、現場で実際に危険な手作業による地雷除去を見たことで、これは今の時代に人間がやる作業ではない、直ちに機械化するべきだと思いました。

小松 手作業で地雷除去をして、1日何個の地雷が除去できるのですか。

今井 現地では、地雷を金属探知機で探査します。元内戦地帯なので空薬莢(やっきょう)がいっぱい落ちていて、金属探知機が反応して掘っても、地雷が出るのは金属片800個に対して1個ぐらいの確率だそうです。それでも反応した金属は、すべて掘って確認をしなければ分からないので、作業員は常に危険と隣り合わせの緊張状態を保って手作業をしなければなりません。精神的にも非常に辛いし、疲労からミスをして爆発することもあるそうです。

小松 それでも作業員の方は、自分たちの村が安心して仕事や生活ができる場所になることを夢見て、地中に埋設された地雷を何年もかけて探し続け、命の危険を承知のうえで、広いエリアを一個づつ手作業で地雷処理していくわけですよね。

今井 もし、その掘削・同定作業をロボットが代わりに行えるようになれば、作業効率も倍以上あがります。DMRは15メートル以上離れた場所からリモート操作ができますが、この距離があれば、万一地雷が爆発しても作業員が負傷したり、命を奪われたりせずに済みます。
初回のカンボジア視察で、地雷除去の作業現場が、未だに危険な環境であることを知った時、私たちの技術で安心安全な環境に変えていきたいと、強く思いました。

小松 カンボジアで、自社のメイン事業として取り組むべきことに出会い、ビジネスとしての光明が見えたとしたら、お互いにとって素晴らしい出会いになりましたね。

今井 そうですね。
地雷除去の作業ステップには「除草」「探査」「掘削・同定」「爆破」があって、一番危険で作業時間が多く割かれるのは「掘削・同定」の作業です。
私たちはそこに特化したロボット開発に取り組もうと決めました。

地雷原と地雷除去作業員の女性

カンボジア試験風景-CMAC試験場-2020.2

地雷除去ロボットの高度な技術を支えるのは、東京下町のエンジニア達。

小松 カンボジアへの視察以降、「地雷除去ロボットDMR事業部」を立ち上げ、本格的にロボット開発に取り組んでいくわけですが、CMACから、今日まで正式な製作依頼は受けていないというのは本当ですか。

今井 はい。私たちからCMACに、地雷の掘削作業を機械化することができますと、 あくまで“提案”をしているかたちです。概ねの合意を得て覚書を結びましたが、正式な製作依頼は受けていません。
現時点では、“実用化を目指していきましょう”という合意形成の段階ですね。

小松 合意形成を得ているということは、DMRの開発資金については、CMACもしくはJICAからサポートがあるのですか。

今井 研究開発費は全部持ち出しですが、2019年にJICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」に採択されたのをはじめ、2021年の3月に中小企業庁の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」に採択していただき、専門家経費、現地渡航旅費、機材輸送費などの面でご支援いただいています。
ものづくり補助金事業では、より耐久性が高いDMR試作機を作るための計画を承認していただけたので、次回試作にかかる費用の3分の2は補助していただけることになっています。

小松 2017年から約4年の間に、4機のDMRのプロトタイプが作られていますが、全て自社のエンジニアが手掛けているのですか。

今井 地雷原掘削のアプローチは、狼会長をはじめとする社内の人間が行いますが、試作機材の製作は自社では行いません。以前から、狼会長の様々な試作を請負っていただいている町工場や外注先が幾つかありまして、彼らと話し合いを繰り返しながら、実用化に向けて調整しています。

小松 発想して設計図を作れば、それをきちんとかたちにしてくれる優秀な技術者が全国の町工場にいるわけですから、日本の技術というのは本当に素晴らしいですよね。
そういったものづくりの人たちと連携してDMRが作られていると思うと、日本人としてとても誇らしいです。

今井 私もそう思います。

小松 DMRは、いつぐらいの実用化を目指していますか。

今井 次回提案するDMR4号機は、コンセプト確認用の試作機なので、それにOKが出てようやく製品版に向けた落とし込み作業が始まります。
今後は、半年ぐらいCMACに預けて長期的な試験や現場での実験・検証等も行い、2024年のローンチを目指して製品化に取り組んでいきたいと思っています。

国内試験風景2020.10

2025年までに、対人地雷の完全除去が義務化されたカンボジア。

小松 カンボジアは、オタワ条約(対人地雷禁止条約)の締約国として、2025年までに国内の対人地雷の除去を完了する義務を負っていますが、現場にDMRが配備されるようになれば、作業中の事故も大幅に減少し、手作業の倍以上の効率で地雷除去作業が可能になるので、完全除去に向けて大きく貢献できるのではないですか。

今井 その通りです。
ただ、カンボジアでは近年、年間地雷被害者数が100人を切ることが多くなっています。それ自体は喜ばしいことですが、被害者数が減ることで地雷問題への関心が薄れて地雷除去活動資金が思うように集まらなくなっているそうです。
条約の期限である2025年が迫る中、少ないリソースで目標を達成させなければならないため、CMACは難しい局面に立たされていると思います。

小松 地雷被害者数は減少傾向にあっても、埋まっている地雷の数がゼロに近くなっているわけではないですよね。

今井 いまだに農村部や森林を中心とした広い地域に、無数の対人・対戦車用地雷が埋設されたままで、その地雷除去作業の多くは手作業で行われています。
CMACも目標に向けて懸命にトライしているようですが、とても間に合わないだろうとお会いする方全員が言っています。過去の実績に照らすと、少なくとも今から8年間、必要十分な予算がついてフルに活動した状態で、ようやくクリアできるほどの面積が残っているようです。

小松 今井さんとしては、対人地雷除去が完了する日まで継続して活動する予定ですか?

今井 そうですね。もうひとつのプロジェクト「地雷原跡地の再生・復興支援」と並行しながら、活動していきたいと思っています。

地雷原跡地の再生と復興を、産業と雇用の両面から支援

小松 IOSの事業領域であれば、DMRを開発・生産して現地に配備することで、国際協力の役割は十分に果たしているし、ビジネスとしても成立すると思うのですが、それとは別に、「地雷原跡地の再生・復興支援」まで手掛けようとしています。この構想には何か理由があるのですか。

今井 カンボジア政府は、農村部の家のない人たちを集めて、町をつくる事業をやっているそうです。しかし、町に産業がなく仕事もないので、一旦は人が集まり町が形成されても、やがて人がいなくなってしまう。そんな実情を、以前CMACの長官からお聞きしました。
それもあって、私の中では、地雷を除去し、ただその土地を使えるようにするだけでは足りないと受け止めていて、その土地を活用した産業と雇用の仕組みを作り、地元経済を発展させることができればと考えたのが、地雷原跡地再生・復興支援プロジェクト考案のきっかけです。

小松 地雷原を再生するためのヒントやアイデアは、今井さんの中にあったのですか。

今井 地雷原を再生利用するメリットのひとつが「農薬の使用歴がない」ということです。
手付かずの土地というのは、すぐに有機農業やオーガニック栽培ができるので、それをうまく事業化できないかとは思っていました。
いま農薬に犯されていない土を探すのは本当に大変なことで、宅地耕地になっている土はもうダメですし、森林もすぐに畑にはできない。未開の土地しか無農薬の農地にはならないですからね。

小松 SDGs technology株式会社からは、こちらのプロジェクトに投資をしていただいたということですが。

今井 片田社長にお話をした時は、まだ具体的なプランがなかったのですが、地雷原を再生するという発想自体はありだなということで、投資をしていただきました。

小松 その先のビジョンに片田社長も共感して参画したいと思われたのでしょうね。
農薬使用歴のない、希少なまっさらな土地を活用して無農薬の食物を生産し、これから様々な商品にすることができるわけです。そんな土地が広大にあるわけですから、これは国の産業にもつながりますよね。

地雷原跡地で生産・加工した、“カンボジア印の商品”を世界のマーケットに。

今井 無農薬農園もそうですが、いまカンボジアが一番欲しがっているのは「加工プロセス」です。
今はタイやベトナムなど他国のブローカーが、カンボジアの農家に来て直接農産物を買い付け、自国内で加工して原料の何倍もの値段で販売していますからね。

小松 確かにカンボジアは加工技術が発達していないので、一次産業までの下請農業で終わっていますよね。

今井 そうです。カンボジアは、カシューナッツが特産物のひとつとして注目されていますが、ローストから袋詰めまでの加工プロセスがないので、収穫した実がそのまま安値で他国に買われています。
技術と環境さえ整えば、無農薬でかつ高品質な原料が栽培できる土壌があるわけですから、収益も10倍以上変わると思われます。
カンボジア政府としても、“カンボジア印の商品”として、自国から外に出せるように発展させたいという思いがあるので、私たちも産業として成り立つように支援できたらいいと思っています。

小松 未来につながるすごくいい取り組みですよね。
カンボジアには特産品もあるし、大いに可能性が伺えます。それに農村部に工場ができれば、現地に雇用も生まれ経済も発展しますよね。

今井 既に地雷原跡地でカシューナッツを軸にいくつかの作物を栽培することは決めていて、有力なパートナー企業、販売先もあります。後は、投資家の方から一定の資金を集めて、カシューナッツの農場や工場を作るプロジェクトを進めていければ、出口戦略がない話ではないです。

小松 日本は、農作物を作り、それを加工し、マーケットで販売するという一連のシステムを持っていますから、日本から指導できる方たちが現地へ行って、街づくりをサポートできれば、助っ人としてはとても心強いですよね。

今井 CMACの長官も、それはすごくウエルカムな話だと言っていました。
農業の技術を高めるのと同時に、収穫した物をより高度な技術で加工して出荷する工場ができれば、そこにはたくさんの雇用と仕事ができる。これからは、そういうところを強く求めたいと言っていました。

地雷原跡地は、外国企業にとっても可能性を秘めた土地。

小松 地雷原跡地の再生・復興支援に、JICAは関わっているのですか?

今井 いえ、民間事業としての取り組みになります。
地雷原跡地の再生・復興支援は、IOSの単体事業としてではなく、他業種の企業やプロフェッショナルな方々と協創しながら取り組んでいこうと考えています。

小松 それはいいですね。1社ではやれることに限りがありますが、多業種の企業や人々の知恵と技術がクロスすることで、農業意外にも、いろいろなプロジェクトが地雷原跡地で実現していきますよね。

今井 カシューナッツをメインの事業として取り組みながら、地雷原跡地の広大な土地を生かして、他のプラスアルファの部分でも、現地の雇用や収益を生む仕組みを作っていきたいですね。カンボジアには仕事をしたいという人がたくさんいますから。

小松 カンボジアの人件費は、周辺のアジア諸国と比べるとどうですか。

今井 現状では、中国やタイに比べても3分の1、ベトナムと比べても8割ぐらいだと思います。

小松 人件費を抑えてたくさんのマンパワーを得ることができるわけですから、カンボジアは労働集約型の事業に適した環境ですよね。

今井 タイやベトナムとは隣国で陸続きですから、こちらの環境と技術さえ整えば、作業の一部をカンボジアにアウトソースするなど、両国で連携してより合理的な生産体制がとれるわけです。日本の企業も、製造や流通、研究開発などの新たなアジア拠点として展開するなど、今後いくらでもウィンウィンの道はあると思っています。

小松 今井さんの中では、もうビジネスモデルができているようですね。
地雷を完全に除去するまでには8年~10年かかるかもしれませんが、いまのような事業化は、地雷除去をした跡地から順に、1年単位で整備していくことも可能ですからね。

今井 そうですね。それともうひとつ、これはあくまで理想ですが、地雷原跡地に進出する企業に、地雷処理費用の一部を出資していただくような仕組みが作れればいいと思っています。

小松 確かに、セットにできたら面白いですね。
地雷除去に出資をして、自分たちの土地や農地を手に入れる。もしくは産物を売ったお金の一部を、地雷原を処理する費用に当てていく、とか。それを循環していけば、地雷除去活動の資金が思うように集まらなくなっている昨今の状況下でも、作業の規模やペースは変わりなく続けていけますよね。未開の地にインフラをつくるのに比べたら全然安いし、素晴らしいと思います。ぜひ実行してください。

理想は、私たちの行動が誰かの行動につながっていくこと。

小松 いま日本でもSDGsが盛んに言われるようになってきて、プラスチックを減らす程度のことは少し考えるようになりましたが、ほとんどの日本人は、自分に何ができるのか、いまだによく分かっていないと思うんです。でも、今井さんがやられていることは、その中核ですよね。

今井 土地を再生するというプロセス自体は昔からあることですし、世界中で地雷処理は行われているので、そこにプラスアルファを付けられるように心掛けて行動してみよう、という程度のことです。
私たちが開発したDMRで地雷を除去し、その跡地に今後1つ2つとビジネスが生まれ、その流れにのって、誰かがまた新たな行動を起こし町の発展につながっていけば最高ですよね。

小松 DMRは、何機つくる予定ですか。

今井 資金の問題を考えなければですが、200台製作する予定です。

小松 その製作が始まると、ようやくIOSの利益にもつながっていきますね。

今井 私たちにいま出来ることは、DMRの開発をして、デモ機を用意するまでです。あとはそれをCMACが欲しいと言ってくれれば発注となります。

小松 そこまでくれば、ODAから出資の話になるんですか。

今井 そうですね。我々もそこにたどり着けるように今必死ですよ(笑)。

小松 カンボジアでDMRのビジネスモデルが成功したら、地雷問題のある他国への展開も考えていますか。

今井 そうですね。DMRの機材の性質は、世界中の土地とマッチすると思うので、必要とする国があれば供給・販売したいと思っています。ただDMRを提供する国は、戦争も内戦もない国に限定されます。勢力が対立している中で、相手の地雷だけ除去するのは、どちらかの勢力に加担してしまうことになりますから。

小松 本当に平和が訪れた国じゃないと難しいですね。

今井 紛争地帯に、いちばん地雷の被害者が出ているのでジレンマはありますね。

小松 私たち日本人は、地雷の苦しみを感じることなく暮らしています。今井さんも、JICAやCMACとの出会いがなければ、カンボジアの現状とは無縁だったかもしれない。それが図らずもこういう事業に出会われたことについて、ご自身としてはどう思われますか。

今井 技術開発や資金調達の苦労もありますし、DMRだけでは右肩上がりの成長が見込めるモデルではないので、葛藤は常にありますけれども、私はこの事業に着手できることに誇りを持っていますし、良かったと思っています。

小松 アジアの国に行くと、私は日本の豊かさを誇ることができない時があります。なんでこんなに格差があるのか。どうして戦争の残骸に苦しんでいる人たちが、まだこんなにたくさんいるのか。またメディアなどで、地雷の被害にあって手や足を失った方とか子供たちを見ると、人はなぜあんなことができるのかと辛く重い気持ちになります。でも同時に人間は解決策を考えることができるということを、IOSの活動を見て思いました。本当に勇気をもらいました。
近い将来、IOSが製作したDMRがカンボジアで地雷除去を行い、その跡地でカシューナッツが有機栽培されたというニュースを楽しみに待っています。

今井 ありがとうございます。


*1…JICA(独立行政法人 国際協力機構)

日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関。開発途上国への国際協力を行っており、カンボジアには、1998年から地雷除去活動における各種支援を継続的に実施している。
JICA(ジャイカ)は、Japan International Cooperation Agencyの略称

*2…CMAC(カンボジア地雷対策センター)

1992年に設立された、カンボジア政府直轄の機関。地雷・不発弾の除去活動、地雷除去技術の研修、地雷に関する調査・情報収集、市民への教育・啓蒙活動、地雷探知犬の育成などの活動を主に行っている。
CMAC(シーマック)は、Cambodian Mine Action Centreの略称


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